犬と暮らす

「ごまはピンクが似合わないのよー」田中さんは笑顔のまま、ほんのちょっぴり残念そうに、こういったので、私は思わず笑ってしまった。

愛犬「ごま」は、躾けるのが、とても難しいといわれている、気性が荒い甲斐犬。しかし目の前の「ごま」は、田中さんお手製のピンクのレインコートを着て、ソファーの上にお行儀よく、おすまし顔で座っていた。

働き盛りのだんなさんが、癌で亡くなったのは、3人のお子さん(全員男の子)が高校、大学と次々に進学を控えている大変な時期で、25年ほど前の話だそうだ。お子さんがそれぞれ独立した後、1人暮らしだった田中さんのところに、雌の甲斐犬、2代目の「ごま」(1代目も「ごま」という名前だった)が来たのは4年前だった。

快活な田中さんの家には、しょっちゅうお客さんが訪れる。
「ごま」はお客さんが来ると、自分の部屋である屋根裏部屋から、器用に、はしごを伝い、駆け下りてくる。その身軽さに、「さすが甲斐犬!」と感心した次の瞬間、「ごま」はコロンとひっくり返り、お腹を見せてお客さんを歓迎してくれる。

犬にとって、お腹を見せるという行動は「降参します」という意味なので、甲斐犬のような野性本能の強い犬種は、こういう行動を簡単にはしない。いずれにせよ、そんなことを知っている人も知らない人も、この歓迎ぶりには、おもわず顔がほころんでしまう。

そんな「ごま」が外に出れば「あら、ごまちゃん、元気?」と田中さんが知らない人からも、声をかけられるほど人気がある。

どんな時でも笑顔をたやさない田中さんは、何に対しても、溢れんばかりの愛情を注ぎ、努力を惜しまず、とても前向きに生きる人だ。田中さんが与えた「ごま」に対する愛は、今、たくさんの人を幸せにしてくれている。

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