現在、日本にはたくさんのしつけ方法が存在します。体罰を使った強制的な訓練もあれば、反対に一切叱らない、褒める訓練方法もあります。また、習性を理解する上で、犬の祖先はオオカミか否か。自分がリーダーであるという“アルファ説”が正しいのかどうか。いい出したら、キリがありません。

そんな中で、犬のしつけにとって「これが絶対に正しいです」ということはいえません。ですが、私はヨーロッパ式の褒めるしつけと、オオカミ進化説、アルファ説を肯定という立場のもとで、しつけを行っています。これらをふまえた上で、読んでいただけたらと思います。


「犬」という動物が、どんな習性を持っているか、ご存じですか。現在、ペットとして飼われている犬の先祖は野生動物。犬の祖先はどこに住み、何を食べ、どういう暮らしをしていたのか。そうした本来持っている習性を理解することは、ペットとして犬を飼う上で大変役に立ちます。しつけも、こうした習性を利用していますし、みなさんが問題行動と思っている行動も、犬の持つ習性からきていることが多いのです。家族の一員となる犬をきちんとしつけるために、まずこの習性を理解しておきましょう。

犬の祖先は、完全な縦社会のオオカミだった

犬の祖先は、どんな動物だったのか…。ジャッカルやコヨーテなど、イヌ科野生動物の交配を重ねた結果であるとか、犬そのものの先祖がいて、それらが他の野生動物と交配を重ねて、現在の犬になった。など諸説あるのですが、その中でも現在もっとも有力な説が「オオカミ進化説」です。私も、「犬はもともとオオカミだ」という説を基にして、しつけを行っています。犬とオオカミが本能的に持っている習性の中には、100%一緒ではありませんが、似通った部分があり、犬の祖先をオオカミだと考えたほうが説明のつく事柄が多くあるからなのです。

オオカミは、群れで生活し、狩猟をする肉食動物です。群れの中には、必ずリーダー(アルファ)が存在しています。リーダーの存在は絶対ですから、群れのメンバーは決して逆らうことはありません。さらに、メンバーの中でも、明確なランク付けがされています。こうした完全な縦社会の中で、オオカミは生活しています。

現在行われている犬のしつけの多くは、オオカミがそうであるように、犬の中にも当然アルファがいるだろうという、アルファ説を基にして行われています。アルファ説を否定する人もいますが、それを実証する例に乏しく、逆に、犬の問題行動の原因を突き止めてみると、アルファ説によって、説明のつくことが多くあるのです。

あなたは、リーダーですか? それとも…?

犬も、群れの中での自分のランクを常に気にしていると考えられます。親兄弟から離れ、人間の家族のもとへやって来きても、犬は人間を群れの一員と認識します。この新しい群れの中で、自分がどのランクかということが、重要な関心事になっているのです。ここで、飼い主がきちんとしたリーダーシップをとれず、甘やかしてしまうと、犬は、自分がこの群れのリーダーだと思い込み、飼い主の言うことを聞かず、問題行動を起こすようになります。これをアルファシンドローム(権勢症候群)と呼びます。

犬もオオカミと同様、縦社会の生き物と考えられていますから、飼い主はリーダーシップをとることが大変重要になってきます。しつけ全般にいえることですが、リーダーシップさえとれていれば、それほど犬に手を焼くようなこともありません。

次回は、犬の習性を利用した、トイレトレーニングや食事について、お話いたします。