LADYWEB講座|Lady's Clinic

ドクター河村のレディース・クリニック


質問 子宮内膜症に似た症状が出ているのですが、妊娠は可能でしょうか?
27歳OLです。以前より生理痛が強かったのですが、最近さらにひどくなってきて鎮痛剤を必ず使うようになりました。また、ここ数か月、性交の際に、膣の奥のほうに突かれると痛みがあります。同じころから排便時に肛門の奥のほうに痛みを感じることがあるようになりました。友人が似た症状で婦人科を受診したら、子宮内膜症と診断され、月経を止める治療を始めました。私もそうなのではないかと心配しています。やはり病院へ行くべきでしょうか。また半年前に結婚して今のところは避妊しているのですが、妊娠はできるのでしょうか。(神奈川県・Y子)


回答 早めに子宮内膜症かどうかの、診断を受けることをおすすめいたします
診察や検査をしてみないと断定はできませんが、ひどくなる月経痛、性交時や排便時の痛みという症状からは、確かに「子宮内膜症」をもっとも強く疑います。したがいまして、Y子さんが「子宮内膜症」であると仮定してお話いたします。

この病気は、子宮の内側を覆い、妊娠の際に赤ちゃんのベッドとなるべき子宮内膜に似た組織が、本来あるべき子宮の内側以外の場所にできる病気です。本来の子宮内膜は妊娠が成立しなかった場合には、月経血とともに体外に排出されますが、子宮内膜症では月経時にその部分で出血を起こし、体外に排出されることなく出血、炎症を繰り返し次第に悪化していきます。子宮内膜症が発生する場所は、骨盤内その他の腹膜表面やその深部、卵巣、子宮筋層内などが多いのですが、まれには肺に発生することもあります。

体のいろんな場所にできるとはいえ、がんとは違い、命を落とすようなことはありません。骨盤の一番深いところ(膣の奥のほう)の深部や卵巣に子宮内膜症が発生すると、性交時にペニスがこの部分を突く際に痛みを感じます。また、膣のすぐ後ろは直腸であり、排便時にこの部分を便が通過する際にやはり痛みを感じることがあります。

現在日本では、この病気で診療を受けている女性が10万人以上、潜在的には100万人以上の患者がいると推測されています。内診、超音波検査などの画像診断、血液検査などにより診断(臨床診断)しますが、正確な確定診断には、腹腔鏡検査が必要です。

しかしながら、腹腔鏡検査は、通常は入院し全身麻酔をかけ、小さいとはいえ、お腹に穴を開けなければならず、検査としては負担も大きく、また検査の際のリスクもゼロはありません。このため、内診や超音波検査などで子宮内膜症であることがほぼ明らかな場合には、臨床診断のみで治療に入る場合もあります。

治療法には薬物によるものと手術によるものがあります。薬物療法としては、副作用の比較的少ないものとして、鎮痛剤により痛みを抑える方法が一般的に行われます。あるいは、ピルや黄体ホルモンが使用されることもあります。特に最近では、避妊用の低用量ピル(残念ながら保険適応ではありません)が、子宮内膜症の症状緩和のために使用されることも増えてきました。

子宮内膜症そのものに対する薬物療法のひとつは排卵を止め、卵巣からのホルモン分泌を抑制し月経を一時的に来なくする方法です。月経が止まるので「偽閉経療法」と呼んでいます。月経を止めるためには、排卵を起きなくするために、脳から分泌される排卵を促すホルモンを抑制する薬(GnRHアゴニスト剤)として、点鼻(1日2、3回毎日)や注射(月に1回)が使われます。短期間では効果が少ないので、一般的には最長半年間をめどに治療します。月経が止まるため症状は軽快してきますが、閉経した状態になるため、副作用として更年期障害のような症状が出たり骨量が減少したりすることがあります。副作用の症状が出る場合には、治療を中止するか、副作用を抑える薬を追加して用います。

これら以外の薬物療法として、ダナゾール(男性ホルモン系の合成ステロイドホルモン)という内服薬も以前から用いられています。しかしながら体重増加やにきび、肝機能障害、まれに血栓症などの副作用が出ることがあります。これらのGnRHアゴニスト剤やダナゾールは、その副作用の強さから、慎重に使用する必要があります。また、治療により一時的に症状は治まっても、薬物療法で子宮内膜症を根治できるというわけではなく、治療が終了して数か月経つと、再発しやすいという問題点もあります。

子宮内膜症に対するもうひとつの治療は、外科的療法です。外科的療法では、腹腔鏡下で病巣を取り除いたり焼いたり、癒着をはがすなどして治療が可能ですが、癒着があまりにひどい場合などには開腹術となることがあります。外科的治療によっても、子宮内膜症を完全に根治することは容易ではありません。子宮内膜症があると妊娠できない、というわけではありませんが、子宮内膜症が不妊原因となっていることは少なくありません。

子宮内膜症が不妊につながる理由として、腹腔内の癒着により卵管が卵子を捕らえられなくなったり、卵胞自体の発育障害、受精障害、着床障害などさまざまなものが挙げられています。実は子宮内膜症に対する最良の治療は「妊娠」することです。妊娠・授乳により月経が止まり、子宮内膜症は軽快していきます。薬物を使う必要のない天然の治療といえます。

これらのことから、早めに子宮内膜症か否かの診断をお受けになることをおすすめいたします。また、Y子さんの場合、現在避妊中とのことですが、治療しなければ妊娠が不可能なほどの子宮内膜症でないかぎり、いずれは妊娠をと考えていらっしゃるのであれば、避妊を解いて子宮内膜症がさらに悪化しないうちにご妊娠されることも検討されたほうがよろしいかと思います。(2003.9.19)